●第十六回
筋の通ったかっこ良さが魅力!
日本のハードボイルド小説の先駆けと言えば、北方謙三だ。日本がまだまだ英米のハードボイルドに席巻されていたころ、『友よ、静かに瞑れ』が発刊、映画化された。英米作品に登場するスマートでかっこ良すぎる探偵や彼らの気障なセリフは、日本人の肌には合わないと感じた人もいただろう。しかし、北方ハードボイルドは、日本人独特の感性、陰、男同士の友情と言ったものが描かれ、リアルで共感できる。
そして、その流れはこの「ブラディ・ドール」シリーズへと引き継がれてゆく。
最新刊の『されど君は微笑む』は、バー「ブラディ・ドール」の経営者・川中を中心とした物語と、あるリゾートタウンで一大勢力を誇る久納一族を描く物語とがクロスした作品だ。
ホテル・キーラーゴの社長・秋山の娘を追ってこの街にやってきた、川中。娘は、プロの殺し屋に狙われていた。我が子同然の娘を助けるため、川中は街で船の仕事を営む「ソルティ」と呼ばれる男とともに抗争の渦中に飛び込む。
この作品は、ソルティの一人称で物語が進む。ソルティは家庭がありながら、その平和は長く続かないと心の奥底で思っている。他人の人生の暗いところに首を突っ込むことが多かったからか……。しかし、ひとたび覚悟を決めてしまえば、信じ合う仲間たちと命をかけることも出来る。また、大学生で、一人の男を全力で支える大人の聡明さを持つ、秋山の娘の覚悟も心を打つ。このシリーズに登場する男と女の、一本筋の通ったブレないかっこ良さに惹かれる!