眠りについたこの街が、30年以上の時を経て今甦る。

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●第八回

藤井美樹(ふじい・みき)
紀伊國屋書店 広島店

これぞおとなの粋

第八回今回でシリーズ八作目となる「鳥影」では、いつものメンバーはちょい後ろにまわってもらい、主人公はスーパーのオーナー店長でバツイチの立野だ。再婚はしたものの元妻からの電話を受けておなじみN市にやって来たところいきなりの拉致、監禁、拷問。早く喋ってしまえと脅されても訳の分からない立野は、無言で抵抗する。それも「理由はない。喋りたくないから」なんて屁理屈で。

気に食わない、そんなとこ? どこかなげやりでクールな態度。何とか脱出してもビビるどころか、元妻と息子が巻き込まれたであろう厄介ごとからは手を引く気配を見せない。その危うさは弁護士、宇野が言う「無感動」というのがぴったりくる。けれど次第に明かされる無感動の訳を知るうちにどんどん立野という人間が存在感を増してくる。

彼ほどではないにしても四〇代ともなると、昔負って治ったはずの傷がぶり返したり、負わせてしまったかもしれない痛みに今更気づいて頭を抱えるほど自分が嫌になったり、色々複雑な心持になってしまう。酒や仕事に逃げるのは容易い。だからバーボンをあおり、思春期の息子と向き合い、全身ボロボロになってもなけなしの誇りを手放さない立野に憧れを持つのだ。それは彼らなりの理屈でサポートする宇野や川中、下村といったおなじみの面々も同様。どんな結末が待っていようとも、それぞれに取り戻せない何かを秘めている。

まいったなあ、平凡な女の私では酒と煙草と車と憂い漂う美女、の北方ワールドはとても遠い世界だ。でもこのシリーズを読むことでひっそり覘くことはできる。

それにしても会話シーンがどれもこれも格好良いってどういうことだ! これがおとなの粋ですか。居酒屋でハイボールばかり飲んでちゃだめなんだろうなあ。

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