眠りについたこの街が、30年以上の時を経て今甦る。

書店員応援コメント

●第十三回

内田 剛(うちだ・たけし)
三省堂書店 神保町本店

本当の“男気”がここにある!

第十三回本当の漢気を知りたければ「ブラディ・ドール」を読めばいい。今もっとも憧れられ愛されている作家といえば北方謙三だ。サイン会で「頑張ってください」と言おうものなら「お前が頑張れ!」と返される。トーク番組で「ジーパンの洗い時がわからない」と聞かれれば「ジーパンが洗ってくれという時が洗い時だ!」と突き放される。それでいてパーティー会場ではビンゴゲームの司会を如才なくこなす。その惜しげもなさは凄すぎる。人をとことん楽しませるために生まれてきた究極のエンターテインメント人間。お洒落にしてお茶目。こういう大人になりたいのだ。

この人柄にこの作品。まったく裏切ることなし。これぞまさしくザ・ハードボイルド。その読みどころは舞台と台詞と小道具だ。シリーズ十三弾目『冬に光は満ちれど』にも随所にシビれるポイントが満載。真似しようとすれば確実に大怪我するであろうキーワードを列挙する。

くわえ煙草。キャメル・フィルター。「おかしな街だが、コーヒーは悪くない」。悲しみだけを強調した唄。アマリア・ロドリゲス。スコープ付きのロングライフル。レミントン製のボルトアクション。七ミリのマグナム弾。「殺される人間は、寿命なのだ」。二本マストのヨット。モータークルーザー。「受けた仕事は必ず果たす」。ドーベルマン。ビリヤード。「裏切り者は、人間的すぎる」。ガーバー製のフォールディングナイフ。葉巻……。

ターゲットを探し求めて無情に仕事をこなす殺し屋の本当のターゲットは紛れもなく読者だ。この作品の魅力に気付いたその瞬間に、殺し文句に射抜かれて、文字通り魂そのものを撃ち抜かれているのだ。

クールにして天衣無縫な人間臭さ……なんと憎らしく小粋なのだろう。これを読めば男は誰もが哀愁漂う戦士となり、女は必ず熱狂的な物語の虜になる。比類なきこの重力を僕は大いに愛し続けてやまない。

シリーズは刊行が続くので、これからもこの世界から目が離せない。

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