眠りについたこの街が、30年以上の時を経て今甦る。

書店員応援コメント

●第四回

松川智枝(まつかわ・ちえ)
今野書店

枯れるな! もっと愉しめ!

第四回登場人物達が足にする車、クルーザー、仲間同士でやり取りする葉巻、シェイクしたマティニー。「ブラディ・ドール」シリーズには大人の男達のこだわりがぎゅうぎゅう。これだけの薀蓄を披露しながら説教臭くならず、目の前にこんな男がいたらかっこいいぞ! と思わせてしまうのが謙三節なのであります。

ミニマルな生活が主流となりつつある現在、今後はわたしも出来るだけ身を軽くしながら生きようと断捨離を続ける日々なのですが、復刊された「ブラディ・ドール」を読んでいると、モノはともかく、重たくなる心の持ち物は多くていい……なんてハードボイルドな気分になります。シリーズが進むごとに、物語の主役川中の心の持ち物は増えていきます。いろんなことを抱えていろんな枷を嵌められているようなものなのに、あまり重さは感じず、むしろしがらみの中で生きる自分を楽しんでいるかのようです。川中を取り巻くお馴染みの面子たちも、それぞれに重たい荷物を抱えながら彼の手助けをする中で、四作目『秋霜』の主人公は画家。それとなく披露される絵画の知識、画家独特のファッションや生活習慣が?っぽくなくすんなり入ってくるのはさすがです。良いモノを身につけ、こだわりのある暮らしをし、ってセレブっぽく見えるのに、そこに心の重みが乗っかることで、フワフワではないハードボイルドが出来上がるのでしょう。

ダンディズムと、そこにつながる男の可愛さも描き込まれた謙三ハードボイルドは、時代は変わり、贅沢をしない、出来ない今のわたし達に、枯れるな! もっと愉しめ! と檄を飛ばしているようです。

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