眠りについたこの街が、30年以上の時を経て今甦る。

書店員応援コメント

●第五回

河合 靖(かわい・やすし)
東京堂書店 神田神保町店

「眠りなき夜」は続く

第五回ブラディ・ドール・シリーズ開始時は川中をはじめ、キドニー、藤木は35歳位という設定だが、北方謙三が描く「男」はこの年齢で既に出来上がっているのだ。50代半ばになった今、痛感させられるのが自分の意志の薄弱さ。特に強い者に立ち向かう気迫がどんどん薄れていることだ。ブラディ・ドール・シリーズがそんな自分を奮い立たす起爆剤になっている。

元々ビジネス書や自己啓発書は読まない主義だが、そんなもの読まなくても北方文学が有るじゃないか! 今こそ「ハードボイルド小説」を読もう!

それにしても、この作品の舞台となるN市には何故こんなにも訳有りの人達が集まるのだろうか。5作目「黒銹」の主人公は叶という名の殺し屋。巻を追うごとに登場人物が強烈になってくるではないか。

しかし叶のターゲットは予想に反して川中でも藤木でも無いことが読み取れる。では叶は一体誰を狙ってこの街にやってきたのか……。

シリーズ2作目の「碑銘」は川中、藤木の命を狙う鉄砲玉の坂井(個人的には一番好きなキャラクター)が主人公だった。今作ではその坂井が叶の腕を試そうと戦いを挑むものの、あっという間に決着はつく。「小僧は、小僧らしくしてろ」と言い放ち、立ち尽くしている坂井に背を向け颯爽と去ってゆく。強い。強すぎる上にやたらと格好良い。

物語は準主人公とも言える謎のピアニスト沢村の活躍で大きく動き始める。叶はこの街でかつて演奏を聴いた事がある沢村と出会いそして本当のターゲットに近づいていくのだが……。

今回、本作品を紹介するにあたり1巻目から読み返したが、時を隔てた現在も何故か古さを感じない。最近の小説には登場する事が少なくなった煙草や葉巻の薀蓄、それに車はマニュアルオンリー、もちろん携帯なんて無い時代背景なのに。

ブラディ・ドール・シリーズは最早ハードボイルド小説の古典となり、ずっと読み継がれていく作品なのだ。

まだまだシリーズは折り返し地点に来た所。ヒーローたちの更なる活躍に期待して欲しい。

読み始めたら一気読み。あなたの「眠りなき夜」はまだまだ続きそうだ!

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