●第十二回
世界観に酔いしれる
このシリーズになぜこんなに惹かれるのだろうかと考えた時、北方謙三先生が作り出す世界観に酔っている自分を感じる。
作品の読み始めには今の世の中にこんな街があるだろうか、こんな人たちがいるだろうかと思ってしまうこともあるが、酒場の情景やニヒルなセリフ回しなど、作品の真骨頂といえる部分に触れるうちに、この世界にどっぷり入り込んでしまうのである。
本作の主人公は波崎了。かつての仲間だった山崎を探しに舞台の街にやってきたが、同じく山崎を追うグループやこの街の裏にいる権力者たちの働きかけで難航する。波崎は前作の主人公・若月をはじめとする登場人物たちと関係を深めつつ、時には暴力も行使しながら、山崎の行方や裏切りの謎を追いかけていく。
波崎は一見非常にクールな性格に見えるが、自らの行動原理に従って危険な相手にも堂々と立ち向かっていく。周りの人物たちもそれぞれの立場がありながら協力していく。そのさまが非常に格好良いのである。波崎や若月は私と同年代だが、こんなことは私にはとてもできない。周りにもこんな人物はいない。時には自分とのギャップにもだえながら、彼らへの憧れを抱かずにはいられないのである。
シリーズは刊行が続くので、これからもこの世界から目が離せない。