眠りについたこの街が、30年以上の時を経て今甦る。

書店員応援コメント

●第十四回

小松稚奈(こまつ・わかな)
うつのみや 金沢香林坊店

無限の世界がそこにある

第十四回私は作品よりも先に北方謙三その人に惚れた。その後作品を読み始めて、いまとても夢中になっている。

先生に初めてお会いしたのは、2年前のある日。加賀一向一揆を題材とした『魂の沃野』刊行記念として当店でのトーク&サイン会が決定した。北方謙三先生が来る……。恐れや、様々な不安が募るばかり。しかしそれは杞憂だった。満員御礼のトークイベントは笑いの絶えないものになり、サイン会も無事終了。ほっと胸を撫で下ろし、挨拶もかねて私は先生の元へ。このとき私は惚れた。

まず生命力。人と接しそれを感じたのは後にも先にもこの時だけだ。それから素敵な笑顔。そして最後にした握手。先生の方から差し伸べてくださった手の厚み―人としての厚みは手に表れるのかもしれないと感じた、今でも忘れられない瞬間である。

しかし作品には手を出せぬまま、それから2年が経った。そして今年8月。ついに私の舞台は整った。某ダンスボーカルグループのとある方のファンでもある私。その方と北方謙三先生のトークライブが決定したのだ。好きな人同士が本・物語について話す日が来るなんて、行くしかない。眼福だ。もう読まざるを得ない。

「本っていいもの、ただの紙だけど無限のものが詰まっている。無限のものが感じられる人生ってすばらしい」。先生のこの言葉が忘れられない。そしてすぐに読み始めた。本当に無限の世界はそこにあった。

このとき先生は、モンゴル取材から戻られたばかりだと話していた。そして私にとって初めての北方作品は『チンギス紀』だ。今回、この欄を担当させていただくことになったが、ここに至る全ての道は2年前から整えられていたのかもしれない、と思っている。

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