マルーハ・パチョンとアルベルト・ビヤミサル夫妻は、一九九三年の十月、六か月におよぶ彼女の誘拐中の経験と、彼女を解放させるまでに夫がたどった経緯を本にまとめたらどうかと私のところに話をもちかけてきた。草稿がかなりできあがった段階で、私たちは、彼女の事件と、同時期にコロンビア国内で起きていた他九件の誘拐事件とを切り離して扱うわけにはいかないのに気づいた。本当のところ、これは別個の誘拐事件が十件平行して起こっていたのではなく――最初はそう思われていたのだが――、きわめて巧妙に選ばれた十人の人間がひとつの集団として、ひとつの誘拐団によって、たったひとつの目的のために誘拐された事件だったのだ。