武州多摩の農家に生まれた水野八重太は、女子のような風貌と腕っ節の弱さに引け目を感じている十五歳の少年。自らの出生時、難産の母と我が身を見事な施術で救ってくれた蘭学者・玄遊に憧れ、学問に励んできた。玄遊が開く塾に入るため勇躍京に上った水野だったが、その蘭学塾は変わり者の巣窟で、学問に励みたいという思いは報われない。入塾から三月――鬱々とした日々を過ごす水野は、常に人を見下すような態度をとる同年代の秋貞司郎と出会う。名門蘭学塾に通う彼が現れてから、水野の周囲には不思議なことばかりが起こるのだが……。期待の新鋭が幕末の京都を舞台に綴る、新感覚の青春時代小説。(解説・青木逸美)