江戸は日本橋本町。薬種問屋柏屋の次男で美男の藍治郎は、幼い頃から「先を見る力」があると言われ、店の奥で商家の旦那衆相手に占いをして暮らしている。一方、京橋の一膳飯屋で働いて生計を立てる十九歳のおときは、幼くして父母を亡くし、天涯孤独の身だった。ある日、突然おときの働いているところにやってきた男から、柏屋の女中に入らないかと持ち掛けられる。奇妙な誘いだったが、引き寄せられるように訪ねた柏屋で待っていたのは、姿も暮らしぶりも浮世離れした藍治郎だった……。生きづらさを抱えた者たちが互いに支え合う姿を描いた、切なくも心和らぐ連作短篇時代小説。