ベテラン放送作家の工藤正秋は、リサーチのために乗車していた阪急神戸線の車内アナウンスに耳を奪われた。「次は……いつの日か来た道。――」それは「西宮北口」の聞き間違いだったが、彼は反射的にその駅で電車を降りた。小学生の頃、今は亡き父とともに西宮球場で初めてプロ野球観戦した日のことを思い出しつつ、街を歩き始めた正秋。いつしか、かつての西宮球場の跡地に建つショッピング・モールに足を踏み入れる。その片隅の阪急西宮ギャラリーには、野球殿堂入りした阪急ブレーブスの選手と関係者のレリーフが展示されていた。正秋の意識は、その場所から、「いつの日か来た道」へ飛んだ。四十数年前の西宮へ――。