綺良は南部藩御側用人・桜木兵庫のひとり娘。伯母が庵を結んでいる、しだれ桜が綺麗な「華厳院」で、幼少期を過ごす初代藩主利直の五男・彦六郎と出会った。ふたりでよく一緒に遊ぶうちに、彦六郎が発した「大人になったら、正室に迎えてやるからな」という言葉を、綺良は大人になっても心に秘めていた。が、次々と過酷な運命が彼女を待ち受けていた――。綺良は大奥のお女中を務めた後、文人でお預人の方長老の手伝いをすることになった。そして方長老が紹介してくれた鉄器作りに次第に強く惹かれ、手伝うことに――。重臣の娘が、時代の波に翻弄されながらも、次々と襲いかかる苦境に挫けることなく、果敢に宿命と対峙する姿を描いた書き下ろし歴史時代小説。