大人気シリーズ90万部突破!

堂場瞬一/警視庁追跡捜査係

シリーズ史上最も厄介な敵を相手に、熱き男たちの正義感が爆発する!

『垂れ込み』

『垂れ込み』
「十五年前の通り魔殺人事件の犯人を知っている。直接会って話したい」。未解決事件を扱う追跡捜査係に、山岡と名乗る男から垂れ込みが入った。たまたまその電話を受けた沖田は待ち合わせ場所に向かうが、男は現れなかった。沖田をよそに、追っても無駄だと十年前の別の事件資料を掘り返す同係の西川。果たして、事態は予想外の方向へ転がっていく。
  • 『垂れ込み』刊行記念 著者インタビュー

    • 「警視庁追跡捜査係」シリーズ第一作『交錯』が刊行されてから、今年で十年。未解決事件を追う、対照的な二人の刑事―「現場百回」をモットーとする昔気質の沖田と、冷静沈着を旨とし、調書や資料から事件を洗い出す、いわば〝書斎派〟の西川―を軸に描かれてきた本シリーズの最新刊は『垂れ込み』。文字通り、沖田のもとにかかってきた、十五年前の上野の通り魔殺人犯に関する通報から始まる。
      インタビュー=吉田伸子
      被害者の山岡はどうして殺されたのか、その謎でラストまで一気に読んでしまいました。終盤に出てくる「本当に恐ろしい人間は、普通の人間として生きている」という沖田の言葉は、読後も深く響いてきます。
      堂場   瞬一(以下、堂場) そう読んでもらえれば、作者としては狙い通りです。事件を解決して終わるというのが、すっきりとした警察小説だと思うんですが、最近は、現実の事件でも〝普通の人〟の犯罪が増えていることもあり、ちょっと捻りを加えました。事件そのものの犯人は、サイコパスのようなキャラなので、そんなに説明しなくてもいい。この手の犯人の動機は、論理的な説明がなくても読者との約束の上では成立するのですが、今回は、その犯人を上回るような悪を設定したので、事件が解決しても、すっきりはしない。『暗い穴』から続いている〝気持ち悪い路線〟を本作も踏襲している感じでしょうか。
      『暗い穴』から路線が変わった?
      堂場   きっかけは特にないんですが、『暗い穴』の前作の『刑事の絆』が「アナザーフェイス」シリーズ(文春文庫)とのコラボ企画だったんです。『刑事の絆』があまりにもストレートな熱血刑事ものだったので、その反動で(『暗い穴』は)ちょっとひねくれたものにしようかな、と。沖田と西川が普通の人間だからこそ、社会の捻れや闇をうまく浮かび上がらせることができるんじゃないか、というのもありました。特異な刑事と異常な犯人との対決にするとホラーになってしまう。あくまでも普通の刑事たちが普通に調べ上げてたどり着いた先が、社会の暗部を掬い取るような人だったというほうが、より暗い読後感になるのでは、という計算も若干あります。ただまぁ、それは後から考えたことで、『暗い穴』があんなダークな感じになるとは、僕自身も思っていませんでした。タイトル自体、ちょっと異質ですよね。スウェーデンの女性ミステリ作家が書きそうなタイトルで。
      普通の人が怖い、というのは現実にも当てはまることなので、沖田と西川が健全であることは救いになっています。
      堂場   沖田と西川をぶっ飛んだキャラにしてしまうと、八〇年代の刑事ドラマみたいになってしまうんですね。警察小説というのは時代によって変わっていくわけで。今は、刑事のキャラを前面に押し出した作品が多いようにも思うのですが、このシリーズに関しては、普通の刑事が普通に調べていって……という路線がもう少し続くかな、と思います。
      今回の犯人は、いわゆるサイコパスだったわけですが、ちょっと毛色が違いますね。
      堂場   犯人の中では、ゲーム感覚に近い感じなんですよね。それはそれでまた異常なことではあるんですが。サイコパスというのは、終いには歯止めが効かなくなって暴走してしまい、そこから綻びが生じることが多いのだけど、本書の犯人は違うんですよね。そこもまた怖さではあるんですが。
      沖田と西川を〝普通〟のキャラにしようというのは、シリーズの最初から考えていたのですか?
      堂場   僕自身、かつては鬱屈したキャラを描いてたこともありました。ちょっと過去を引きずって、その過去が今に影響を及ぼしている、というような。そのほうがキャラに深みが出るかな、と思ったりもしていたのですが、現実にはそういう人はほとんどいないじゃないですか。なので、普通でいいな、と。性格的には、沖田にも西川にも若干極端なところがあったりするんですが、こと生活者としてとか、仕事をする人間としては、ごく普通の、健全な人物像でいいのかな、と。そういう(健全な)キャラで、どこまで描けるのか、自分の中で試している、というところもあります。
      沖田と西川は、読者に近い存在だとも言えます。
      堂場   もちろん、鬱屈したりぶっ飛んだりしたキャラで読ませる、というのもアリだと思うんです。過去に何かがあって、というのではなくて、いわゆる社会からはみ出してしまうような人間とか、ものすごい能力を持った人間とか、そういう主人公のキャラで読ませるタイプのもの。ただ、僕自身、歳を重ねていくごとに、その手のものは自分に合わないな、と感じてきたということがあります。今は、沖田と西川のような、生活に根ざしたキャラが描きやすいんですね。
      そんなふうに感じ始めたのはいつ頃からですか?
      堂場   このシリーズと、「アナザーフェイス」シリーズを書き始めたあたりでしょうか。「アナザーフェイス」シリーズの主人公である大友はシングルファーザーという、日本の警察小説ではあまりない状況設定なんですが、基本的には彼も普通の人間です。まぁ、大友の場合はちょっと特殊な能力の持ち主ではあるんですが、基本的には突出したキャラではありません。頑張って生活もして子育てもして、そのために仕事においては自分がやりたい部署からは外れているけれど、それで良し、と。ワークライフバランスをライフのほうへ振った人、というだけのことで。沖田と西川は私生活に多少の問題を抱えながらも、ワークのほうが軸になっているんですが、別に警察官じゃなくても、一般企業にもこういう人間はいくらでもいそうだよね、というキャラです。ただ、二人がそういう普通の人間であるが故に、じゃあ、どこで読ませるのか、ということがこのシリーズでは常に問題になるところではあるんです。
      「アナザーフェイス」シリーズの話が出たのでお聞きしたいのですが、『刑事の絆』の時のコラボのような企画は今後も考えていらっしゃいますか?
      堂場   この「追跡捜査係」シリーズと「アナザーフェイス」シリーズは、一応世界観を一緒にしているんです。架空の警視庁の、それぞれ違う部署にいる、という設定です。この二つだけではなく、今動いているシリーズは、全て世界観を一緒にしてあります。だからそこでまたコラボすることがあっても、おかしくはない。あと、これはもうオープンにしていいと思うので話しますが、二〇二一年は僕のデビュー二十周年にあたるので、「追跡捜査係」と今出ている「ラストライン」(文春文庫)と「警視庁犯罪被害者支援課」(講談社文庫)の三シリーズの、乗り入れコラボをします。
      ビッグニュースが!
      堂場   前回、「追跡捜査係」と「アナザーフェイス」のコラボでは、前編・後編みたいなスタイルにしたのですが、今回はそれぞれの登場人物を完全に入れ込んだものにします。今、その執筆準備をしているところです。
      ファンには堪らない企画ですが、堂場さんご自身は大変なのでは?
      堂場   やや苦しい状況ではありますが(笑)、頑張ります。それぞれのシリーズの作品に、他のシリーズからゲストが入って、協力したり反発したりしながら物語が進んでいく。なので、全シリーズがそのまま全体でバディもの、みたいな感じになります。
      『垂れ込み』もそうですが、このシリーズでは、個々のキャラの細部にまで、堂場さんの目が行き届いている、と感じます。
      堂場   沖田の恋人・響子や西川の妻は、準レギュラーキャラですよね。そういうキャラたちには血を通わせてあげたいし、ひょこっと出てきて、ひょっと消えてしまうというフラットな登場人物もいるのですが、彼らにも、爪痕くらいは残させてあげたいな、ということは毎回考えていますね。その他A、その他B、みたいな感じにはしたくないんです。出てくる人には全部、それなりに背景があるような書き方をしたい、と思っています。
      登場人物たちがどうなっていくのか知りたいというのも、読者が堂場さんのシリーズを手に取る大きな理由だと思います。
      堂場   登場人物といえば、今回はラストにえぇっ!?というエピソードを入れたのですが、あれは実は次回作への伏線でもあるんです。ちょっと新しい人物を投入しようと考えていまして。
      また新たなニュース!
      堂場   そうやって少しずつ動かしていこう、と。沖田と西川、主役の二人は不動ですが、周りのキャラはどんどん変えていって、最後には全く別物になっていく、という着地点のことを考えているんです。
      コラボ作品といい、登場人物の変化といい、読者は単独のシリーズというよりは、堂場さんの〝世界〟を楽しんでいる気がします。
      堂場   そうであれば嬉しいですね。作者としては、〝沼〟に引きずりこむ感じでもあります(笑)。ファンタジーだと、出版社の違うシリーズで世界観を同じにして物語をどんどん広げていく「世界の構築」というのは割とあるんですが、ミステリではあまりない。その意味では、書いている側としても面白いですね。
      今後も、このシリーズからは目が離せません。
      堂場   登場人物たちをどんなふうに異動させて動かしていくか、そのことはいつも考えています。その意味では、僕自身が、彼らのいる架空の警視庁の、人事二課といった気分です。
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未解決事件×対照的な二人の刑事

  • 警視庁捜査一課追跡捜査係勤務
  • 40~41歳(『交錯』時40歳)
  • 妻子あり(妻は元交通課の美也子、息子は中学生の竜彦)
  • モットー「冷静沈着」
  • 事件には書類からアプローチし、定時帰宅後自宅PCで仕事をする。
  • 非喫煙、酒は控えめ。家族を大切に考えている。毎日コーヒーを入れたポットを持参。電波式時計を使用。

  • 警視庁捜査一課追跡捜査係勤務
  • 40~41歳(『交錯』時40歳)
  • 独身(シングルマザーの本多響子と交際中)
  • モットー「現場百回」
  • 現場を訪れ、証言と自分の目を頼りにし24時間勤務も厭わない。
  • 煙草・酒を愛飲。1人暮らしで、冷蔵庫にはビールとつまみしか入っていない。自慢の機械式時計を愛用。

主要人物相関図

警視庁追跡捜査係シリーズ既刊本一覧

第八弾『脅迫者』
シリーズ史上最も厄介な敵を相手に、
熱き男たちの正義感が爆発する!

『脅迫者』

新人刑事時代のある捜査に違和感を抱いていた追跡捜査係の沖田は、二十年ぶりの再捜査を決意。自殺と処理された案件は、実は殺人だったのではないか──内部による事件の隠蔽を疑う沖田を、同係の西川はあり得ないと突っぱねるが、当時事件に携わった刑事たちへの事情聴取により、疑惑はさらに高まる。そんな折、沖田は何者かに尾行されていることに気づくが……。

第七弾『報い』
見えない糸に操られた男たち。
刑事達にしのび寄る、恐怖の影……!

『報い』

警察に届けられた一冊の日記。そこに記された内容から、二年前に起きた強盗致死事件の容疑者として、辰見という男が浮上する。追跡捜査係の沖田は宇都宮に急行するも、到着直後、辰見は重傷を負った姿で発見され死亡。容疑者特定の矢先の出来事に沖田は当惑を隠せない。一方、同係の西川は別の事件に頭を悩ませていて……。不可解な事態に翻弄される刑事たちは、事件の本筋を手繰り寄せられるのか。

第六弾『暗い穴』
埋められた謎の死体
埋まらない人間の欲望。

『暗い穴』

東京で謎の死体遺棄事件が露見した。連続強盗事件で逮捕された相澤直樹が、「檜原村に死体を埋めた」と突然告白。供述通り遺体は発見されたが、近傍から死亡時期の異なるもう一つの遺体が見つかったのだ。追跡捜査係の西川は取り調べを任されるも、最初の自白以降、相澤は頑なに口を閉ざしてしまう。同係の沖田も捜査に加わるが……。村の奥底に埋もれかけた謎の真相を、彼らは掴むことができるのか。

第五弾『刑事の絆』
おまえのために、俺たちは奔る!
対照的な名コンビ刑事は、
大友鉄(アナザーフェイス)最大の危機を救えるか!?

『刑事の絆』

沖田とかつて強行犯係で同僚だった、総務課・大友鉄が最大の危機に見舞われた。ベンチャー企業が開発した、次世代エネルギー資源を巡る国際規模の策謀に巻き込まれたのである。仲間の身を案じた沖田は、追跡捜査係に協力依頼がないにもかかわらず、同係の西川と共に大友が手がけてきた事件を洗い始める。刑事同士の熱く固い繋がりに思わず唸る「アナザーフェイス」シリーズと異例のコラボレーション!

第四弾『標的の男』
『犯人に心当たりがあります』
服役中の男の告白――。事件は暴走を始める。

『標的の男』

服役中の男の告白――墨田区の不動産業者の強盗殺人事件は、意外なところから容疑者が浮かび上がった。監視中の容疑者・熊井を自らの失態で取り逃がした追跡捜査係の沖田は、負傷した足を抱え、病室での捜査資料の見直しを余儀なくされる。一方、警視庁随一の分析能力を誇る西川は、いつもと違う容疑者の聞き込みに戸惑いを感じていた。今までと立場が入れ替わった二人が暴走する事件を追う!

第三弾『謀略』
連続するOL殺人。
犯人に辿り着くのは、“事実”か“偶然か。

『謀略』

都内の運河沿いで帰宅途中のOLが強盗に襲われ殺害される事件が連続して起きた。二つの事件は手口や状況が似通っており、捜査本部も連続殺人としての見方を強めていたが、通り魔の犯行なのか、犯人への手掛かりが少なく捜査は膠着しはじめる。追跡捜査係の西川と沖田は、捜査本部から嫌厭されながらも、事件に着手。冷静な西川がかつてないほど捜査に執念を見せ、事件の共通点に気付くが…。

第二弾『策謀』
指名手配犯の謎の帰国。
そして事件は、再び動きはじめる――。

『策謀』

五年前、渋谷で殺人を犯し、国際手配されていた船田透が突如帰国するとの情報が、追跡捜査係の西川の許に入った。逮捕されると分かりながら、なぜ船田は帰国するのか? 無事逮捕できたものの、黙秘を続ける船田の態度に西川は不審を抱くのだった――。一方、同じく五年前のビル放火事件の洗い直しを続ける沖田。やがて、それぞれの事件は、時を経て再び動き始める――。

第一弾『交錯』
コールドケース(未解決事件)を追う二人の刑事。
それは、人々を震撼させた連続殺傷事件から幕を開ける――。

『交錯』

白昼の新宿で起きた連続殺傷事件――無差別に通行人を切りつける犯人を体当たりで刺し、その行動を阻止した男がいた。だが男は、そのまま現場を立ち去り、そして月日が流れた。強行犯係から追跡捜査係へ異動になった沖田大輝は、犯人を刺した男の手がかりを探し求めていた。一方、都内で起きた貴金属店強盗を追う同係の西川大和。二人の刑事の執念の捜査が交錯するとき、それぞれの事件は驚くべき様相を見せはじめる。堂場瞬一のバディもの警察小説第一弾!

著者プロフィール

堂場瞬一(どうばしゅんいち)

堂場瞬一

1963年茨城県生まれ。2000年『8年』で第13回小説すばる新人賞受賞しデビュー。著書に「警視庁追跡捜査係」「刑事・鳴沢了」「警視庁失踪課・高城賢吾」「アナザーフェイス」「刑事の挑戦・一之瀬拓真」「警視庁犯罪被害者支援課」「ラストライン」の各シリーズのほか『ターンオーバー』『絶望の歌を唄え』『ザ・ウォール』『帰還』『決断の刻』『凍結捜査』『奔る男 小説 金栗四三』『沃野の刑事』『インタビューズ』など多数。

元警察官が遭遇した、未曾有の爆破テロ

絶望の歌を唄え

元警視庁公安部外事三課の警察官・安宅(あたか)(しん)。彼は十年前、東南アジアへPKO派遣された際、過激派による自爆テロで死の恐怖を味わった。その後は警察官を辞め、ひとり喫茶店を営んでいた。しかしある日、店のある東京・神保町で爆弾テロが発生。それを機に、安宅の周りで異様な出来事が起こり始める。警察の捜査を攪乱する謎の女の出現、殺人、二度目の爆弾テロに犯行声明……。もうこの国には安全な場所など残されていないのか?(解説・藤田香織)

絶望の歌を唄え

「まだ行ける」

ターンオーバー

10年前に警視庁公安部外事三課に所属し、東南アジアへPKO派遣された安宅は、そこで過激派による自爆テロに遭う。命は助かったものの、現地で知り合った友人・田澤がテロで行方不明になり、安宅は傷心のまま帰国。友を失った悲しみと死の苦しみから、警察官を辞め、東京・神保町で喫茶店を出し暮らしていた。そんなある日、店近くで大規模な爆破テロが発生し、その事件をきっかけに田澤の影を感じはじめる……。

ターンオーバー