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新人賞

第四回 小松左京賞

選評

今回は四作品が最終選考に残ったが、比較的あっさりと受賞作を決定することができた。

『妄想帝国』は極端に東京に一極集中化した日本を舞台にした近未来SFであり、スラップスティック・コメディー的な展開で、前半は異様な迫力に満ちた作品である。だが冷静に考えてみると、西暦二〇五〇年代に首都圏人口が九千万人を超え、地方は過疎化するという設定そのものに少し無理が感じられてしまい、ファンタジーとしての設定と考えてみても説得力を持つには至らなかった。また、笑いを狙っている部分にしても、くすぐる笑いはあっても、深みのあるユーモアにまで昇華されてはいないので、後半はくどさを感じてしまう。この設定を生かすには長くても中篇程度にまとめるべきであろう。

『ウィルス』は、日本全土を襲うある種のウィルス感染を、ケーブルテレビ局に勤めるひとりの若者の視点から描いたパニックSFであり、昨今のSARS騒ぎを連想させる作品である。登場人物たちは皆、素直な、いわゆる「いい人」たちばかりであり、それが本作に、ある爽やかさや静謐さを醸し出している。その一方で全体的にヤマ場の盛り上がりに欠けてしまった感は否めない。またナノカプセルを用いた人為的ウィルス感染という設定も、SF的魅力に満ちたものであるだけに、もう少し技術的に突っ込んだ描写があればと感じられた。

『眠る大地』に関しては、作者は既に著書のあるプロの書き手であり、設定や構成も見事にまとめられている。シベリアの永久凍土中から発見されたネアンデルタール人と謎の人間型生命体、それと前後して発生する奇病の蔓延、とデータ的にも充分に読み手を満足させてくれる作品である。ただ、綿密なデータや舞台設定でスケール感を出すことに成功している一方で、登場人物たちの内面性の掘り下げが不足してしまっているのが残念である。

以上の三作品は、もっとストレートに訴えかけてくる、ドラマ性に迫ってもらいたかった。

『火星ダーク・バラード』は、その点を見事にクリアしていた。作者は昨年も最終候補に残ったが、前回とは趣きの違う作品であり、幅広いジャンルにわたって書くことのできる人であるという印象を受けた。本作は人類の宇宙開発と火星で密かに進められているプログレッシブ(遺伝子操作によって生み出される新人類)計画とを絡めた、テンポ感あるSFであり、エンターテインメントとしての面白さはもちろんのこと、火星開発に関する科学的データの処理などもきっちり押さえられている。そして、なにより見事なのは主人公のひとりであるプログレッシブの少女の内面性、実存性がしっかりと描写されていることであり、SFによる文学的テーマ追求の可能性をあらためて考えさせてくれる作品であった。読みながら、タイトルにある「ダーク・バラード」とはどんなメロディーなのだろうかと、ついイメージしたくなるような魅力にも富んでいて、ラストまで一気に読み通すことができる作品であり、深みと感動を同時に満たしてくれる作品として、今回の受賞作に決定した。

受賞者の言葉

扉がようやく開かれた喜びをかみしめると同時に、その先に続く、長い長い道のりのことを思うと、眩暈にも似たものを感じます。

SFという、素晴らしく自由なエネルギーに満ちた世界で、これから自分が、読者に向かってどんな花を咲かせ、たくさんの方々に満足して貰える美味しい実を結ばせることができるのか。
その方法を、どこまでも、真摯に探してゆくつもりです。

小松左京先生をはじめ、選考に関わって下さった多くの方々には、この場を借りまして心よりお礼申し上げます。

本当に、ありがとうございましした。

上田早夕里
一九六四年生まれ。
神戸海星女子学院卒。
兵庫県姫路市在住。

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