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新人賞

第六回 小松左京賞

選評

私は本賞の選考基準として、SF的発想の作品であることはもちろんのことであるが、同時に、エンターテインメントとしての、小説としての面白さの追究がどれだけなされているかを常に念頭に置いている。つまり、読者の存在を前提に、いかに娯楽を提供しながら、同時に深く大きなテーマや問題提起を読者に投げかけられるかということである。端的に言えばエンターテインメントの奥の哲学性の有無、である。今回の選考に際しては、私のこの考えからは大きく離れた作品があったのは残念であった。

今年度の受賞作は伊藤致雄氏の『ルーツ』。紀元前三千年・縄文海進時代、日本の海岸に遭難不時着した地球外超知性体が、その帰還を期しつつ、日本の歴史上の節目節目で大きな働きを見せていたという、歴史伝奇小説的な作品である。謎を孕んだ冒頭から、すでに読者を作品世界に引き込んでいくが、特に私が感心したのは、作品の核となっている幕末のペリー来航のあたりからの描写で、一気に読み切らせてしまう力は今回の最終候補作の中では抜きんでたものがあった。荒唐無稽な設定を、綿密な時代考証によって歴史小説として納得のいくものとしている点も評価したい。そして単に面白いというだけではなく、当時の日米関係に焦点を当てつつ、現在の国際関係を考えるうえでも作者なりの主張を感じさせるテーマ性をも、併せ持っている。ただし、タイトルである『ルーツ』に関しては、一定の年齢以上の読者にはドラマにもなった有名なアレックス・ヘイリーの小説を想起させてしまうし、そうでなくてもやはり内容を充分に伝えているものとは言えない。これは例年感じることだが、全般にタイトルの付け方がうまくない、もしくは安直である。タイトルで作品の本質を伝えるということに、応募者にはもっとデリケートに気を配ってもらいたい。

佳月柾也氏の『糸巻き群想』はファンタジー的要素の強い作品で、開巻早々のいかにも怪しげな情景が目に浮かぶ酒場の描写など、映像的な断片のそれぞれは魅力的なのだが、ストーリーが展開していくに従って求心力を失っていく。構成力は感じさせるのだが、暗喩的な表現や展開が読み手に負担になってしまう。随所にちりばめられた描写は書き慣れたものを感じさせるだけに、より一層のリーダビリティを望みたい。

左畑衛海氏の『真夏の人喰い』に関しては、一次選考・二次選考とかなり評価が高かったと聞くが、私にとっては今回の最終候補作中もっとも評価の低い作品であった。死者の生前人格に肉体を貸す人物たちという設定は面白いし、ペダンティックな文章もなかなか雰囲気を醸し出している。が、作者が作品世界を表現するための設定として創出した造語が煩雑で読むことを妨げる。造語自体が悪いわけではなく、SFを描くのに不可避なことでもあるが、それのみにとらわれて肝心のストーリーが伝わってこないようでは困る。厳しい言い方をするようだが、読者に対するサービス精神というものがあまりに乏しいのではないか。SFが一部の読者だけのものとなっている、とはここ数年来言われていることだが、良くも悪くもその象徴的作品であるように感じられた。

受賞者の言葉

面白おかしい小説を目指しているのに、なぜか純文学系の方に投稿を続けて憂き目ばかりをみておりました。受賞作ですが、初稿を読み返したとき、ひょっとするとこれはSFというものなのではないか、と豁然と気がつき(?)それならなんといっても小松左京だろう、読んでもらえないかなあ、先生なら……という理不尽な自惚れはあったのですが、お読みいただいた上に受賞となり、まさにSF的な――きっと未だわかってない――喜びです。米寿の母にこの上ない贈物ができましたこと深謝いたします。

伊藤致雄
63歳
埼玉県富士見市在住

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