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特集: 岡崎琢磨 の世界

[特別座談会]

狩野大樹さん 八重洲ブックセンター営業部
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岡崎琢磨さん
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礒部ゆきえさん 旭屋書店池袋店

ベストセラー「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズでも知られる岡崎琢磨さんの新作が、ハルキ文庫に初登場です! 物語の舞台は、小さな書店の地下でひっそりと営業する〈バー・タスク〉。謎めいた女店主のトワコさんと、彼女のもとでアルバイトをする主人公・佑くんの日々を描きます。本書の刊行を記念し、著者の岡崎さんと現役書店員の狩野さん、礒部さんによる座談会を行いました。

まずは作品について伺います。『九十九書店の地下には秘密のバーがある』とタイトルにあるように、今回の舞台は書店のバー。近頃はブックバーも増えていますが多くは併設で、作中の〈バー・タスク〉のように地下にあるというのは珍しいですよね。でも、この設定がすごく面白いと感じました。

岡崎琢磨(以下、岡崎)> 執筆のお話をいただいたときは、ブックカフェをモチーフにした作品を、というものでした。ただ僕は喫茶店を舞台にした作品はすでに書いているので、もう一ひねりしたいなと。そこで思いついたのがバーでした。お酒を飲むのが好きでバーにもよく行きますが、バーって地下にあることが多いなと感じていたし、時々異世界に入っていくように感じることもあったんです。そこで扉を境に別世界が待っている、異世界にワープするような演出ができたら面白くなるんじゃないかなと思い、地下への階段という形を用いて、いわゆるブックバーとは違うものにしました。

礒部ゆきえ(以下、礒部)> 一気読みでした。私にとっては理想とするバーで、入口となる階段が昼間は雑誌のラックに隠れているというところがいいですよね。一見しただけではバーがあるかどうかわからない、その秘密めいた感じが良かったです。

岡崎> ちょっと秘密基地っぽい感じを出したかったんですよね。でもこういうお店は書店員さんの目にはどう映ったのかなと気になってました。

狩野大樹(以下、狩野)> バーって一人だと入りづらいと感じることもあるのですが、本が関係していたり、実は書店が経営しているとなると僕は入りたくなりますね。でも自分でやるかと問われれば、やらない。いろいろ大変なんで(笑)。

礒部> 酔っぱらったお客様をどうするのかとかありますよね。私、ブックバーに勉強がてら立ち寄ったことがあるんですが、そこのマスターが「君はこの本を読んだらいいよ」と押し付けるように勧めてきて……。こういうの苦手なんですよね。その点、〈バー・タスク〉は本を売るわけでもないし、熱く語ることもない。せいぜい本のタイトルが会話の中にちょっと出てくるだけで、ホント、理想です。

岡崎> バーって押し付けがましくないというのが重要だと思うんですね。話したい時に話して、静かに飲んでいたい時はただ飲むだけ。その間が大事なんじゃないかなと。だから店主のトワコさんも自分からは本の話題は振らないし。

狩野> それがこの作品の違うところですよね。書店が舞台で本を手掛かりにして謎を解くっていうのはよくあると思うんです。だけどこの作品は、本はあまり関係ない。

岡崎> そうなんです。僕も本についてがっつり書きたいわけでも、書店のリアルを描きたかったわけでもなくて。むしろファンタジーの中の書店といいますか、夢に思い描くような書店を意識していたというのはありますね。

狩野> 八重洲ブックセンター本店にもカフェがありますが、そこで事件が起こるかといえば起こらない(笑)。プライベートで考えてみても、起こった出来事と本を結び付けて解決することなんてほとんどないですから、むしろ岡崎さんのような絡ませ方のほうが、ずっとリアルな感じはします。僕自身は書店が舞台の小説というより、日常の感覚を描き出した作品という印象を強く受けています。

岡崎> そう言っていただけるとすごく嬉しいし、ほっとします。

その日常を描きながらもミステリーになっているのが岡崎さんの作品の特徴だと思います。今作は各話とも恋愛が絡んでいるので、複雑な恋心を解き明かしていく過程が面白かったです。

岡崎> 僕は人の心の動きを描くことでミステリーになると思っています。これまでの作品も事件に対しての謎というより、人がなぜそんなことをしたのか、なぜそう思ったのかなど、日常の謎ともいうべきものを中心に書いてきました。そういう意味でも恋愛というのは人の心の不思議ですから、ミステリーにマッチしやすいと思っています。加えて今回は仕事をもう一つのテーマにしたいと思っていたので、トワコさんや佑にはそうした部分も担ってもらいました。

礒部> 女性の多くが働きながら子育てなどをする現在。そこにはさまざまな葛藤もありますが、トワコさんからはそうした現代の女性像が浮かび上がってきますし、佑君が仕事を辞めざるを得なかった心情の描写もすごくリアルに感じました。

岡崎> 実は佑のモデルは僕の弟なんです。作品の冒頭に佑と母親とのやりとりが出てきますが、あれは実際に彼が仕事を辞めることになって実家に戻ると告げた時の母とのエピソードなんです(笑)。

礒部> そうなんですか。とても素敵なシーンですよね。この作品は恋愛や仕事だけでなく、親子というのもテーマとしてあるなと感じました。読む人によって、いろいろな視点が持てたり、読み方ができる本だと思います。

狩野> それは本を売るうえでも大切なことだと思います。本店は8階にコミックとラノベを置いているのですが、朝イチにフロアに行くと50代、60代ぐらいの方が読んでいます。決して若い人だけのものじゃないんですね。だからこの本はこうだと思い込んで意図的に売り場を作ってしまうと、お客さんを締め出すことになってしまうなと。

礒部> 私もそれは実感しています。池袋店は40代、50代の女性のお客様が多いのですが、その年代の方によく買っていただくのが、実はアニメーション系のイラストが表紙になった本。それを知ってから、勝手な決めつけはだめだと自分に言い聞かせています。

岡崎> 本を送り出す側としても同じことが言えますね。僕がデビューした頃からライト文芸といわれるジャンルが大きくなっていて、イラストの表紙をつけて文庫で売るという形で定着しているようです。一方で、イラストが表紙の本は買わないという声も耳にします。その気持ちもわからないわけではないけど、やはり表紙で判断されてしまうのは悲しい。読む人を絞り込むようなことはせず、より多くの人に読んでもらえる作品をこれからも書いていきたいと思っています。

狩野> 本屋の話題が出ているところで伺いたいのですが、岡崎さんにとって本屋はどんな役割なのでしょう。またバーはどんなところですか。

岡崎> 本屋さんは出会いの場かな。本は閉じ込められた知識の泉であったり、まだ見ぬ物語との出会いであったり、自分の世界を開いてくれる扉だと思っています。だから本屋さんに行くとワクワクする。でも人生は有限で今ある時間も限られているから、どれかを選び取らなければいけない。それが惜しいというか、本当は全部をノックしたいですね。バーは、ちょっと静かだったりもするので、テンションを上げずに平常の状態で話ができる場所だと思っています。作中では仕事を終えてゆっくりする場所みたいに書いていますが、着ている服を一枚脱ぐというか、心のジャケットを脱げるところであってほしいですね。そんなバーで気の置けない友人たちと楽しく話がしたいです。

礒部> ちなみに、トワコさんのお店で飲みたいのはどんなお酒ですか。

岡崎> うーん、カクテルですかね、やっぱり。作品にもカクテルが出てきますが、カミカゼとかスカイダイビングあたりは学生時代に自分でシェーカーを振って作ってましたね。

礒部> えっ、かっこいい!

岡崎> あの頃は外で飲むということがあまりなくて、自宅で一人で飲むしかなかっただけなんです。でも、バーテンダーのアルバイトはやってみたかったかな(笑)。

狩野> でしたら、うちのカフェで一日店長はどうですか?イベント用のバーを作りますので、ぜひシェーカーを振ってもらって……。

岡崎> やってみたいです! イベントは読者層を広げるいい機会だと思っているので、まだ僕の本を手に取ったことのない人にも興味を持ってもらえるよう頑張ります(笑)。

(2018年10月15日 小社会議室にて)

●新刊紹介

『九十九書店の地下には秘密のバーがある』
訳あって入社2年で会社を辞め、自信をなくしていた長原佑。ある日訪れた書店で、謎めいた女性店主から“仕事を探しているなら、今夜この店にもう一度来て”と告げられる。再訪した佑が案内されたのは、書店の地下を改装した秘密のバー。そこで店主のトワコさんから言い渡された、思いがけない〈仕事〉とは―。
本体620円+税
岡崎琢磨(おかざき・たくま)
1986年福岡県生まれ。京都大学法学部卒業。2012年、第10回『このミステリーがすごい!』大賞の“隠し玉”として発表された『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』でデビュー。同書は2013年、第1回京都本大賞に選ばれたほか、累計220万部を超える大ベストセラーに。ほか著書に『春待ち雑貨店 ぷらんたん』『さよなら僕らのスツールハウス』『夏を取り戻す』など。
狩野大樹(かのう・ひろき)
1975年生まれ。2018年に八重洲ブックセンターに入社。現在は八重洲ブックセンター営業部で商品仕入を担当。
礒部ゆきえ(いそべ・ゆきえ)
1983年生まれ。2006年に旭屋書店入社。現在は池袋店で文芸・文庫を担当。
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