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相場英雄 の世界

単行本として刊行されるや各紙誌で大絶賛され続々重版した、相場英雄の『トップリーグ』。「官邸」の最大のタブーを扱った作品は、WOWOWでのドラマ化決定、そして続編『トップリーグ2 アフターアワーズ』も8月8日に刊行が決まった。この政治サスペンスはどのように書かれたのか、その創作の秘密に迫る。

相場英雄インタビュー

官邸主導の政治と、政治取材の実態をリアルに描いた小説『トップリーグ』が衝撃をもって迎えられたのが2017年。今また、続編となる政界ドラマ『トップリーグ2 アフターアワーズ』(ハルキ文庫)を世に送り出す作家、相場英雄さん。舞台が前作から5年後の新たな物語を紡ぎ出した。

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内藤麻里子(以下、内藤)> 『トップリーグ』は有力政治家に食い込んだ「トップリーグ」と呼ばれる記者を目指す政治取材の現場と、航空機疑獄・クラスター事件を軸に、官邸主導という今までにない政界の形を描いて読み応え十分な物語でした。一つの完結した世界だったので、今回『2』をお書きになったのは驚きました。

相場英雄(以下、相場)> 『トップリーグ』のドラマ化がWOWOWで内定し、『2』の執筆を要請されたんです。WOWOWさんで作るドラマは今回で4作目(『震える牛』『血の轍』『不発弾』に次ぐ)。僕の作品は何も出口のないラストが多いので、ドラマ化を許可した以上好きなようにやってくださいというスタンスなのですが、今回は「もうちょっと書いてよ」と。担当編集者も隣でニコニコしながら「『2』、いいかもしれませんね!」というお話で(笑)。いつの間にかOKをさせられた格好です。他の連載や刊行物などスケジュールがギチギチだったところを、睡眠時間もお酒を飲む時間も削り、実質1カ月半で800枚ちょっとを書きました。

内藤> 新しい女性キャラクターなど『2』にはいろいろな要素が盛り込まれていて、より深い闇のある濃厚な物語になっていますね。

相場> 実を言うと、一応ドラマ向きの結末があってWOWOWさんから原案的なものをご提示いただきました。灰原という女性記者や、主人公・松岡の父親の過去はあちらからの提案です。だったらもっと肉付けしちゃえと思ってしまうのがこの商売の悲しい性でして(笑)。新たに取材しました。SPのエピソードは大臣経験者の関係者から聞いた話を参考にしたりしています。

内藤> 『トップリーグ』では長期政権の安定した政局があったわけですが、『2』ではそれを覆そうという動きも出てきます。さらなる政界の深層を描いたうえに、最後は大変光のあるというか、政治取材とはこうあるべきだという理想を書かれました。

相場> ドラマ向きにしましたが、できあがってきた台本がそうなっていない(笑)。ただ、ここを直せば相当変わるという僕なりの記者クラブのあり方、政治とメディアの健全な対立関係を提示しました。記者会見を形骸化する懇談をなくし、海外メディアを含めて定例会見を開放、可視化することです。そうなると記者の質問力が問われる。思いつきで、記者の質問の巧拙などを週刊誌が格付けするなんて書きましたが、これ結構面白いだろうと思います。珍しく前向きな話を書いてしまって、キャラがぶれたかも(笑)。

内藤> もともと通信社で経済部記者のご経験もある相場さんが、政治の世界に斬り込んだのはなぜでしょう。

相場> どの新聞の政治面、どのテレビのニュースを見ても我々が知りたいことが何も出ていないなと、記者をしていた頃から感じていました。書くために政治の世界の取材をして、初めてここの構造はインナーサークルなんだとわかりました。読者、視聴者に何も伝えず、政治ニュースは永田町界隈およびそこに利害関係のある人たちの連絡帳になっている。おかしいよね、という問題意識がありました。取材で話を聞くうちに、本当に知らないことが次から次へと出てきました。ある中央官庁の幹部からご指名いただき飲む機会がありました。『2』に書いたことですが、官房長官の側近から「この問題を取材したい記者がいる」と連絡があれば、官僚はフルアテンドで説明にとんでいく。「よく調べましたね」と言われましたが、そんなに調べていません。

内藤> 前作に続き驚くべき政界、政治記者の実態が次々と出てきて思わず引き込まれますが、作家の取材力と想像力はすごいですね。

相場> これはいろいろなところで言っているのですが、もともと記者なので一般の人が知らないファクトを一つ書いたら、後の9割は?をつける。『トップリーグ』に関しては『1』『2』共に普段より取材した部分が多かったので、?をカバーできたんじゃないかなと思います。育児支援関連法案について書いた時に、連載を読んだ知り合いの永田町の方が「相場さん、言ってよ! 役所からすぐ取り寄せるから」って、まだ世に出ていない「案」の文字がついた詳細な資料を送ってくれました。もう書いちゃった後ですけどね。でも、政策はこういうところで揉んでいくんだなという過程が垣間見えました。「霞が関には相場さんのファンが多いんですよ」と偉い方から聞いたこともあります。だったら予算でもっとたくさん本を買ってよと言いたい(笑)。

内藤> 「羨望と嫉妬」が渦巻き、他人の弱みにつけ込む。先読みし、さまざまな罠をしかける。政界、官界の闇に迫り、久々にガッツリした物語を読んだなと感じました。それなのに中央官庁の人たちはこの作品に好意を寄せているんですね。

相場> かなりストレスがあるんですよ、人事が官邸に握られているから。人事の話はみんな大好物。僕も駆け出し記者時代は何が面白いのかわからなかったけれど、日銀担当の頃ネタ元にメモを渡されてある人事を抜いたことがある。すると日銀マンが「今度の人事で俺どうなるの」と聞いてくるようになった。人事って一大関心事で、彼らのパワーの源ですよ。

内藤> 「トップリーグ」シリーズは本当にいろいろ考えさせられ、政治不信というか恐怖すら覚えます。一番伝えたいことはなんでしたか?

相場> 現在の政治家も記者も国民、読者を向いていない。インナーサークルで利益を共に食み、利益を独占している。近代の歴史の中でもこんなひどい状況はなかったと思います。「おかしい」と言うべき記者たちが同調してしまっている現実は、結構エグく書いたつもりです。本来は政治家を監視して国民に知らせるのが記者だけれど、その記者を監視するのが国民という状況になってしまったという意識がないと騙されるよと言いたい。

内藤> 厚みのある政界の物語を読ませていただきましたが、政治と政治記者の世界は書き切りましたか。

相場> ギャラがいいオファーがあればまた書きます(笑)。ただ、昔のように記者と政治家のドラマがないんですよ。「赤坂の議員宿舎が一番悪い」とみんなが言います。そこに入ってしまえば、記者は立ち入れない。金丸信さんが言っていたらしいんですが「毎朝二日酔いなのにやってきて、革靴に朝露がついている。そういう記者は大事にするよ」って。かつては秘書や大物議員の子分が居酒屋でレクチャーしてくれたものだったけれど、そういうことが本当になくなってしまい今の若い記者は大変だという話も聞きました。でも、ネタはたくさんあると思うので、切り口を変えれば別のものが見えてくるかもしれませんね。

聞き手
内藤麻里子(ないとう・まりこ)
文芸ジャーナリスト

●新刊紹介

『トップリーグ』
「トップリーグ」とは、総理大臣や官房長官、与党幹部に食い込んだごく一部の記者を指す―大和新聞の松岡は、入社十五年目にして政治部へ異動、またたく間にトップリーグ入りを果たした。一方、松岡と同期入社だった酒井は週刊誌のエース記者として活躍している。そんな酒井が「都内の埋め立て地で発見された一億五千万円」の真相を追ううちに、昭和史に残る一大疑獄事件が浮かび上がってきて……。各紙誌で大絶賛され、続々重版された「官邸」の最大タブーを抉る問題作、熱望の文庫化。
本体760円+税

●新刊紹介

『トップリーグ2 アフターアワーズ』(8月8日発売)
大和新聞の政治部で、官房長官のトップリーグとして活躍していた松岡直樹は、史上最年少で特別編集委員になっていた。一方、大手出版社の週刊誌でスクープを連発していた酒井祐治は、京都で小さな学習塾を開いていたが、そこに元同僚の大畑康恵が突然現れた。「五年前の酒井さんの仇討ちをします」―昭和の一大疑獄事件のさらなる深い闇とは!?「永田町」激震のノンストップ政治エンターテインメント。
本体760円+税
相場英雄(あいば・ひでお)
1967年新潟県生まれ。89年に時事通信社に入社。2005年「デフォルト 債務不履行」で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。12年BSE問題を題材にした『震える牛』が話題となりベストセラーに。13年『血の轍』で第26回山本周五郎賞候補および第16回大藪春彦賞候補。16年『ガラパゴス』が、17年『不発弾』が山本周五郎賞候補となる。近著に『KID』がある。
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