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新川帆立の世界

『先祖探偵』刊行記念対談
新川帆立×細谷正充

『元彼の遺言状』での鮮烈なデビュー以来、次々とヒットを飛ばしている新川帆立。その新シリーズとなる『先祖探偵』の発売を記念して、文芸評論家の細谷正充氏による対談と解説、また新作発売に期待を寄せる書店員の皆さんからの応援コメントで、その人気と創作の秘密に迫る。


細谷正充(以下、細谷)> 本日は新刊の『先祖探偵』を中心に話を伺います。

新川帆立(以下、新川)> 探偵ものはいかがですかとお話をいただいて、そのときに二つの道があると思ったんです。一つは本格ミステリー的な意味での、難しい謎解きをする探偵。もう一つは、ハードボイルドな路線での探偵。これは必ずしも名探偵みたいな感じではない。そのどちらに行くかというとき、ミステリーよりハードボイルドを書きたかったんですね。

細谷> それはどうしてでしょう。

新川> 誰に言っても?≠ンたいな顔をされるんですが、最近ハードボイルド作家じゃないかと思い始めていて。私が書きたいのはハードボイルドなんじゃないかと。

細谷> なんとなくわかります。新川さんの作品の、自分の規範を持つ主人公たちが、事件や人物と向き合うというスタイルは、ハードボイルド的だと思います。

新川> 人の強さとか強がりとかが書きたいのかもしれない。謎解きの面白さも技術として書けるようになりたいとは思っていますが。で、ハードボイルド探偵ものにしようと、大きい方向性は決めました。実はNHKの「ファミリーヒストリー」を見ていて、めちゃくちゃ面白かった。みんな自分の先祖って知っているようで知らないですよね。おばあちゃんぐらいまでしか知らないし、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんの職業になると急に曖昧になる。今まで見過ごされてきたけれども、意外とみんなも興味のあるところなのではないかと思って設定しました。

細谷> 斬新な設定です。主人公の邑楽風子は、今までの作品の中で一番突飛なところがない。ハードボイルドということで、あえて個性を抑えたのかなと思いました。

新川> まさにその通りです。ハードボイルドの主人公はあまり自分語りをしない。自分の痛みとかには蓋をしていて、気づいてないようなキャラクターにしたくて。キャラ立ちという感じではなく、より現実の人間に近い造形にしてみました。

細谷> 謎解き探偵の方向にはいかないと言いましたが、第一話は、かなりトリッキーなネタを使っていますね。

新川> そうですね。本格ミステリーで求められる謎解きのレベルってすごく高いので、そこで勝負はしていない。ただ、自然とミステリー短編のリズムにはなっていると思います。

細谷> 全五話ですが、一話ごとにテイストを変えています。第二話は瑠衣という女の子の夏休みの先祖調べの話になる。読んできて気になったのが、家族に対するこだわりです。今までの作品にも家族との確執や、複雑な思いが盛り込まれていますね。これは意識的なものか、それとも無意識なのか。

新川> 無意識です。言われてみて、確かにそうだなと思っています。宮崎出身なんですが、地元から出たくて出たくて上京した。家族というか、土着的なものからの抑圧みたいなものを感じて暮らしてきたんです。(今でも)逃れられない生まれとか土着とか、故郷の鬱陶しさと有難さみたいなものがないまぜになっている。多分、私自身が悩んでいるから、出てしまうのかな。あと、もう一つ理由があるとすれば、比較的若い主人公を置いているからだと思うんですね。三十前後ぐらいだと、家族の話は切り離すことができない。

細谷> なるほど。生まれ育ちのような、環境込みでキャラクターがいるという。

新川> すべてのキャラクターについて、この人はどこどこ出身で、こういう家族がいて、という周辺設定が頭の中にあります。そこまで考えないとやっぱり掴めないですね。

細谷> なるほど。では第三話ですが、怪談の「六部殺し」を使っています。

新川> 地域伝承とか大好きなんです。こういうのって、百パーセント嘘ではないと思うんですよ。残るには残るなりの理由があって、フィクションかもしれないですけど、そのフィクションが必要とされる理由があるのだと思います。何百年経っても変わらない人間の本性みたいなものとかがあるような気がしています。

細谷> ファンタジーやホラーも書いてみたいですか。

新川> 現代ものも好きなんですが、違う世界の話を読みたいという気持ちがあります。地方出身ですごく娯楽がなくてつまらなかったから、本を読むしかなかったということが、自分の原点だと思う。本を読むということが、唯一の息継ぎができる時間でもあったんです。だから、日常がつまらないのに、そのつまらない日常の延長みたいな話は読みたくなかったんですよ。違う世界に行きたいという気持ちが強かったので、S?Fとかファンタジーとかへのこだわりもあるんだとは思います。私、地方の人に向けて書いているんですね。田舎の人が、ある種つまらない日常を忘れられるようなものを書きたい。

細谷> でも、新川さんの小説の作り方は、とてもロジカルですよね。

新川> そうですね。ただ、プロットはぜんぜん立てられない。前から順番にしか書けないので、いったん書いてから改稿します。

細谷> 風子は、あちこちの地方に行きます。現地取材はしているんですか。

新川> 現地には行けてないんです。資料本を読んだり、ものすごく綿密にストリートビューを追いかけて、確認しながら書いています。(風子が)全国各地に行く構成にしたのは、取材と称して毎月旅行をしようと思ってだったのですが、そのタイミングでアメリカに行くことになったので。日本に戻ってこられたら、毎月取材に行きたいですね。

細谷> ということは、シリーズは続くのでしょうか。

新川> 続けたいですね。全国四十七都道府県、行きたいです。

細谷> それはいいですね。最後に今後の予定を教えてください。

新川> 冬頃に集英社から短編集が出ます。ちょっとブラックユーモアっぽい短編集。筒井康隆さんが好きなので、その感じでやっています。リーガルS?Fと、私は言っています。

細谷> 今後は、ジャンルを問わずにどんどん広げていくような形ですか。

新川> そうですね。今年の夏から連載が三つ始まって、このシリーズも続いていきます。来年もたくさん出せるといいなと思っています。

構成=細谷正充

●新刊紹介

『先祖探偵』 新川帆立
「私は、ひとりで生きている気がしていた」―風子は、母と生き別れてから20年以上、野良猫のように暮らしてきた。今は東京は谷中銀座の路地裏で、探偵事務所をひらいている。「曾祖父を探してください」「先祖の霊のたたりかもしれないので、調べて」など、様々な先祖の調査依頼が舞い込む。宮崎、岩手、沖縄……調査に赴いた先で美味しい料理を楽しみながら、マイペースで仕事をしている風子。いつか、自らの母を探したいと思いながら。
定価1760円(税込)
新川帆立(しんかわ・ほたて)
1991年、アメリカ合衆国テキサス州ダラス生まれ、宮崎育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。2020年、第19回『このミステリーがすごい!』大賞を選考委員満場一致で受賞した『元彼の遺言状』で翌年デビュー、大ヒットになる。他の著作に『倒産続きの彼女』『剣持麗子のワンナイト推理』(いずれも宝島社)、『競争の番人』(講談社)。

篠 友子の世界

『うえから京都』刊行記念インタビュー

これは、日本を立て直すために京阪神が手を結ぼうとする物語だ。だが、クセの強い関西各府県が、すんなりまとまるわけがない。互いの思惑が入り乱れる中、立ち上がる交渉人・坂本龍子。彼女は令和の坂本龍馬になれるのか―。『うえから京都』は、フィクションと現実が交錯するような痛快エンターテインメント。著者は篠友子さん。本作で作家デビューを果たしたが映画業界でその名を知られた人でもある。そんな篠さんがなぜ執筆へと至ったのか。作品に込めた想いとともに伺った。


篠さんは本作で作家デビューされましたが、それまでの歩みは映画とともにありました。邦画などの宣伝を行う会社(MUSA)を経営され、ご自身も宣伝プロデューサー。以前は映画専門のフリーペーパー「ステナイデ」の編集長もされています。

篠友子(以下、篠)> 振り返ると笑い話みたいなんですが、もともとはぜんぜん違う仕事をしていたんです。27歳で起業し、マーケティングをずっとやっていましたが、40歳近くになった頃、ちょっとゆっくりしたいなと。仕事から離れたものの、子どもには「ママは仕事していないとだめだよ」と言われるし、実際、私もなんか物足りなくなって。それで美容系に興味があったのでエステサロンを作りました。そのサロンの広告媒体として作ったのが、フリーペーパー「ステナイデ」なんです。エステは事業としては大失敗するんですが(笑)、フリーペーパーはネーミングが面白いと新聞に取り上げられたりもして、媒体だけ残っていきました。

確かに印象的な名前ですよね。どんなお考えからつけられたのでしょう?

篠> 当時、ファッション誌などはすべて横文字のタイトルでした。でも私たちは日本人だし、日本語のほうが響くはずだと。それに、フリーペーパーって捨てられることがほとんどですが、本当は捨ててほしくない。そうした思いが言葉遊びのようになっています。

そこから、どんな経緯で映画専門紙に?

篠> 映画のコーナーは作らないのかと言われたことがきっかけで、48ページくらいの中のほんの一コーナーとして始まって。そうして何号か出しているうちに、表紙に使うビジュアルに困ったわけです。フリーペーパーだからお金は掛けられないし、著作権もあるからなんでも勝手に使えるわけじゃない。そこで、配給宣伝に関わる会社すべてにメールを打ちました。「表紙に使えるビジュアルがあったらご提供ください」と。すると、予想外にも全社から返信が来たんです。

なんと! それにしても業界に一斉メールとは大胆ですね。

篠> 怖いもの知らずなところがあるんです(笑)。そこからパブリシティ宣伝の依頼などがあれよあれよと言う間に増えていって、もう映画誌にしてしまえと。取材からライティング、撮影はもちろん、編集やデザインもすべて自分でやっていました。人を雇う余裕がなかったんです。当時は広告も入れておらず、収入も大したことなかったですね。それでも楽しみながら10年。ところがトラブルに巻き込まれ、楽しいだけでは続けられなかった。そこで、また一から出直そうと約10年前に今の会社を作りました。

宣伝業務のメインに邦画を選ばれたのはなぜですか?

篠> 洋画も好きですが、邦画のほうがより関係者の顔が見えるから好きなんです。それだけに、俳優さんや事務所などとも丁寧に人間関係を構築していかなければなりません。でも、それこそは私の得意なことでもあると思いました。

角川春樹社長が監督された「みをつくし料理帖」の宣伝も担当されていますね。

篠> 非常にありがたいお話でした。私にとっては初めての超大作でしたから、できるだけのことはやろうと。そうしたらコロナでしょ? やりたいことができないのは苦しかったですが、2020年10月には公開を迎えることができ、ほっとしました。

『うえから京都』はその頃から書き始めたと伺いました。

篠> 「みをつくし料理帖」の公開から数カ月後、コロナは終わりが見えず、私にも予想外の時間ができました。最初は神様がくれたお休みだくらいに思って、韓流ドラマを見まくったりとお気楽な気分だったのですが、長引けば長引くほど不安になってきて、思考はマイナスに向かうばかり。私にとって仕事をするということは人と関わること。それがなくなると、生きている意味すら見えなくなりそうでした。そんな日々にあって、ふと書いてみようかと思ったのですが、実は、そのきっかけを作ってくれたのは長渕剛さんなんです。

あの長渕剛さんですか?

篠> ええ。長渕さんの主演映画(「太陽の家」)の宣伝を担当したんですね。そのご縁で、新曲のリリースを書いてほしいとご連絡をいただいて。出来上がったものをお渡ししたら第一声で「いいねぇ」と。私の文章を褒めてくださったのは長渕さんが初めてだったので、ものすごく意識の中に残りました。と同時に、なんで褒めてくださったのかを自分なりに考えたら、向き合う気持ちが違うことに気付きました。映画のリリースは主観を入れず、事実関係を理路整然とまとめていくのが基本ですが、この時は、歌詞の世界に入り込んで、自由な思考で書いていたんです。そうかと。もしかしたら、自由度の高い文章なら書けるのかもしれないと。

そして書き始めた。

篠> はい。でも、小説を書こうと思って始めたのではなく、脚本を書くつもりだったんです。映像化したいと思っていた物語でしたから。でも、書けなかった。脚本は行間を埋めないですよね、役者さんに委ねるから。それが自分の中で消化不良になってしまいました。セリフはばんばん出てくるんです。でも、このセリフでちゃんと伝えられているだろうかと考え込んでしまい……。だったら、その思いをきちんと文字にして落とし込み、原作として書いてみようと。

作品は京都と大阪、兵庫が団結して京阪神同盟を組み、日本を変えていこうという内容です。ただ、その壮大なスケールに対して、発端にあるのは本来の都は京都であるという京都人のプライドであり、都を奪還したいという思いです。京都の立ち位置というのは、見方を変えるとこれほど面白いのかと実感しました。

篠> 京都に9年ほど住んでいたんです。ですから、京都人の気質というのはリアルに肌で感じ取ってきました。上から目線とかプライドが高いとよく言われますが、それはどこから来るのかを考えたとき、やっぱり歴史なんですよね。いろいろ調べていくとその歴史が想像以上に面白くて、これは物語になるなと思っていました。

『うえから京都』というタイトルもインパクトがあります。

篠> これはですね……。3年ほど前に、映画「翔んで埼玉」のPR番組を観ていて、「関西だったらうえから京都だよね」と、冗談のようにポロッと言ったことがあるんです。家族で「おもろいやん」と盛り上がったんですが、このタイトルが決まってから物語を作っていったという流れです(笑)。

こちらは政治の世界が舞台だけに、ブラックユーモアもより刺さりました。

篠> コロナ禍を経験して、日本という国に対しての信頼がちょっと折れたというか。さまざまな政策が私たちの意図するものとは違う方向に進んでいるように思え、大丈夫なのか、この国はと。そういう思いも込めて物語を構築していきました。だからこそ、希望の要素を含めた、明るい作品にしたかった。嫌なことがあってもマイナスに考えたらそこで終わり。プラスに変えればいいんですから。

主人公の坂本龍子はその象徴のようにも感じます。高知の県庁職員でありながら、政治の世界に知られた交渉人という設定ですが、この名前だけで物語への期待値も高まります。

篠> 都を持って行かれた京都が奪還しに行くとはいえ、京都だけじゃ無理。じゃ、関西が組んだらどうなる? うん、面白いかも。だけど、京都が大阪や兵庫に声を掛けるというのはリアルじゃないし、誰か必要だなと考えた時、薩長同盟のことがふと浮かんで。私は高知出身だし、坂本龍馬さん大好きだし、いっそ龍馬さんみたいな人を出せばいいんじゃないかと。まんま坂本龍馬のパクリだねと思ってもらって大いに結構。だからこそ響くものもあると思っています。

大阪の吉岡知事、東京の池永小百合知事という、実在の人物を彷彿とさせる名前もあり、その姿もどことなく実物に近い描写で。映像になったらと思うと、ワクワクします。

篠> 宣言しておきます。挑戦します! これを本格的な映画にしたいと思っています。それが私の次の目標でもあると思っているので。

「可能性がゼロでないなら考える」という言葉が作中に出てきますが、それは篠さんご自身の思いでもあるようですね。

篠> 人生を振り返ってみると、ジェットコースターなんです(笑)。挫けそうになることも多々ありましたけど、私は「逃げない」というのを自分のポリシーとして決めているんです。だから、可能性がゼロでないならやってみようと。だめだったら引き返せばいい、別の道を行けばいいじゃないと。この本を書くときも同じでした。

そして、一冊の本になりました。

篠> 書き始めたときは出版していただけると決まっていたわけではないので、自分の中ではミラクルです。一番のミラクルは角川春樹社長に認めていただけたことです。作家大学という学校があるのならば、入学許可をいただいたという風に受け止めています。頭の中にはまだまだ映像があるので、それも本にできたらいいなと思っています。その時も、「おもしろい」という5つの文字だけを取りに行きたい。それ以外の評価は気にしません。映画も同じでいろいろ言いたいことはあっても、結局は面白いか面白くないかの二択なんです。だから、「おもしろかったけど……」でもいい。誰かの心に響くものが、総称として「おもしろい」というワードになる、そういうものを書いていきたいと思っています。

構成=石井美由貴

●新刊紹介

『うえから京都』 篠 友子
京都駅に降り立った女性の名は坂本龍子。数々の難問を解決し「交渉人」と呼ばれる彼女のもとに京都府知事の桂大吾から、低迷した日本経済を救うため、経済の拠点や首都を東京から関西に移したいという依頼が入った……。ブラックユーモアを交えながら展開される、全く新しいエンターテインメント小説の誕生!!
定価1870円(税込)
篠 友子(しの・ともこ)
27歳で起業し、アウトソース事業、媒体事業を経て、2012年に株式会社MUSAを設立。邦画やドラマの宣伝、イベントPRを主軸とする事業を展開し、邦画宣伝では、これまで100本以上の作品に関わる。小説家として本作がデビュー作となる。
株式会社 角川春樹事務所
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