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今月の特集

第十一回角川春樹小説賞受賞作刊行記念

柿本みづほ の世界

昨年直木賞候補にも選ばれ、話題をさらった今村翔吾氏の第十回角川春樹小説賞受賞作『童の神』につづく今年の受賞作品は、近未来の札幌を舞台に特殊な能力を持つ人々の希望と再生を描いた物語。選考委員で北海道出身の今野敏氏も絶賛の本作。タイトルにも入っている「羊(シープ)」が身近な札幌で生まれ過ごしてきた柿本さんへのインタビュー、および吉野仁氏の解説より、作品の魅力に迫る。

柿本みづほインタビュー

受賞作を書かれた経緯をまず教えてください。

柿本みづほ(以下、柿本)> 札幌を舞台にしようと思ったのが最初でした。東京を舞台にしても土地勘がなくてうまく書けなかったので、土俵をこちら側に寄せてみようと。札幌が舞台の近未来小説で、特殊な力を持ち、生きづらさを抱えている人を題材にしようと考えました。生きづらさは私も感じていて、同じように抱えている人を書いてみたかったですし、ハリウッド映画の脚本の書き方の本を読み、キャラクターに葛藤や絶望を与えると物語がドラマティックになるとあったのでそれも参考にしました。小説のメインを人間ドラマにし、能力のバリエーションをいろいろつけて面白くしようと考えました。

主人公の斗一桐也は「羊飼い」と呼ばれる異能力者です。彼のところに少女(ヨウ)が現われて物語が動き出しますが、プロットや人物をどう造形されましたか。

柿本> 好きな映画の『レオン』のイメージで、無力な少女と裏社会にいる人のバディものにしようと膨らませていきました。主人公を中年男性にしたら『レオン』に寄りすぎてしまったので、若いお兄さんでライトめの賞金稼ぎにしました。ストーリーを決めた時に桐也とヨウ、それに味方側の人物を考え、敵側は書きながら考えていきました。桐也とヨウは、感情的に理解できる、好きな人物ですね。纏は母親的な造形で主人公のそばに置きましたが、実際にいたらおせっかいで距離を置きたいタイプかも(笑)。一番気に入って書いたのが伊織で気持ちが入りすぎたのか、書きすぎを指摘されて単行本にする段階で削りました。プロットは一日くらいで立て、キャラクター作りの方に時間がかかりました。

敵も味方も、異能力者が続々出てきます。いろんな能力や技の名前を考えるのは大変でしたか。

柿本> とても楽しかったです(笑)。能力名にはそれぞれ元ネタがあって、乗って造形したので、悪乗りしたところまで楽しんでいただけたらいいですね。能力を使うのに面倒な条件があるものにしたいと、羊飼いと羊の関係がカギになる設定にしました。ゲームでHPやMPが消耗されるように、特殊な能力を使う際にリスクを負ったり消耗するのは大抵は使う側ですが、何かの映画でリスクを肩代わりさせるシーンを観て、他人の生命力を消費して能力を使うというアイデアを十年程前にネタ帳に書き込んだのが元になっています。

北海道ネタも続々出てきますね。

柿本> 札幌を舞台にするならとことんマニアックにしようと、通りの名や風景といった地元の部分を盛り込みました。北海道では羊をよく食べるので「羊」は地元ネタでもあります。見慣れている街を描写できるのでイメージしやすかったですし、十二月の話で、寒い空気感や主人公の孤独を助長して書けたのも札幌を舞台にした利点でした。普段住んでいる街に若干の歪みを持たせ、ちょっとずれた感じで人を書きたいと思っていました。

桐也とヨウの関係性に焦点を当て、人間ドラマをメインにしたのはなぜですか。

柿本> 実は、ミステリー以外の小説で応募したのは今回が初めてだったんです。ミステリーを書いては一次落ちばかりで、何がダメなんだろうと人に読んでもらったら、トリックに無理があると言われました。かなり落ち込んで、トリックを考えるのを一度やめようと思って。映画の構造を分析して、人間ドラマがメインだからこそ面白いのかなと思っていた時期だったので、トリックの代わりに人間ドラマを据えて書いてみました。謎のウエイトをなくした分、読者が飽きないようにと展開をきちんと考えて、要所要所に戦闘シーンを入れたり、説明しすぎて重めにならないようにしたり、とても気を使って書きました。

そうしたら受賞で、びっくりしましたか?

柿本> びっくりしました(笑)。もう十年各賞に応募していて、去年は七作くらい出したんですけど、角川春樹小説賞の傾向を知らずに送ってしまい、歴史ものが多く受賞していると後から知ってカテゴリー・エラーと思っていたんです。最終候補に残ったと電話が来た時も何かのセールスかと思って(笑)、でもやっぱり落ちるだろうと思っていたら受賞と言われて、「?かな」と思いました。

好きな小説や映画は?

柿本> 中学生の頃は乙一先生やライトノベルを読んでいて、書店でふと読みたいなと買った京極夏彦先生の小説にいきなりはまりました。ミステリーは面白いなと、E・クイーンやA・クリスティを読んでいきました。映画はホラー、サスペンス、SF、アクションなど、ちょっと怖い感じのものが好きです。母はサスペンス系、父はアクション系と両親とも映画好きで、親が映画を観ている横にいて影響を受けたと思います。母がよく、『この子の七つのお祝いに』や『犬神家の一族』の話をとうとうと聞かせてくれたんですよね(笑)。子供の私は単語だけ覚えて、映画を観ていないのに佐清が好きだったり。

自分で書くようになったのは。

柿本> 文章には物心つく頃から触れていて、中学の頃から誰に見せるわけでもなく小説らしきものを書いていました。それがミステリーになった時期は覚えていなくて、京極夏彦先生や映画の影響でオカルト系のミステリーを書き、結構面白いね、出してみたら? と友達に言われて高校の時から投稿を始めました。仕事に就いても小説を書いて、応募歴が長くなるほど小説家になりたい気持ちが強くなりました。十年応募し続けて諦められなくなったというか、やめてしまったら今まで積み上げてきたものすべてが無駄になると、半ば執念で書いていました。今作では、ヨウが感情を持つことで起こる弊害も書いているんですけれど、高校時代に友達に読んでもらった話も似たテーマだったんです。

桐也は陰のある一匹狼で、ヒロインのヨウは生まれから特異な存在ですね。

柿本> 人間の枠組みの外にいた存在が、人間に近づいていく話を書きがちなんです。無意識だと思うんですけれど、生きづらさを感じると共に、枠組みの外にいる人を羨ましく感じる気持ちがたぶん私の中にあると思うんです。別に犯罪を犯したいというのではなくて、何も気にしないような悟った人を羨ましいと思う。でも自分はそんな生き方はできなくて、憧れながらも枠組みの中で生きていくしかない。その差異、すれ違いが私の中にあって、書いて表現したいのかなと。今作の、感情がないままでいた方が幸せだったんじゃないかという部分も、自分の考えの表れだと思います。母を四年前に亡くして、今も喪失感を抱えています。闘病の三年間は病院に泊まったり、「感情がなければいいのに」と思い続けていたことがあって、その時の考えが盛り込まれたと思います。

〈人間の生きる悲しみが漂い、小説の純粋性を保たせている〉(北方謙三選考委員)と評されていました。ただしお好きな傾向を見ると、書く作品はいずれにしてもエンターテインメントになっていきそうですね。

柿本> そうですね(笑)。受賞作はライトめなSFですが、本格的なSFも一度書いてみたいです。それからディストピアもの、社会がどこかおかしいという話にも挑戦してみたい。これが世の中の主流で当たり前ですからと言われても、ちょっとずれてるなと感じることは日常的にあるので、小説にしていけたらいいですね。警察もので、それこそ『羊たちの沈黙』のようなサスペンスも書いてみたいです。未来はどうなるんだろうと考えるのが好きで、何十年も先のことは分からないですけれど、想像しうる少し先の未来を考えるのが今作を通して楽しかったので、また別のかたちで近未来小説を書いてみたいとも思っています。

聞き手=青木千恵(書評家)

●新刊紹介

『ブラックシープ・キーパー』
異能力を持つ元警察官の桐也は、2年前に自らの手で姉を撃ったトラウマに囚われていた。そんな自己嫌悪と孤独に苛まれる日常の中で、一人の無垢な少女に出会う。この日から、桐也は、生きるための小さな光を見つけていく。映画『レオン』と『ブレードランナー』へのオマージュを込めた、近未来の札幌を舞台に描く希望と再生の物語。第11回角川春樹小説賞受賞作。
本体1400円+税
柿本みづほ(かきもと・みづほ)
1991年生まれ。北星学園大学文学部心理・応用コミュニケーション学科卒業。本作にて第11回角川春樹小説賞を受賞しデビュー。北海道札幌市在住。

小特集:相場英雄「トップリーグ」ドラマ化記念

WOWOWプライムにて10月5日よりOA開始

政治と報道の舞台裏、権力と愛憎が渦巻く世界を描く迫真のリアリティ

ドラマ解説

本誌9月号でもお伝えした通り、今回放送されるWOWOWドラマ版「トップリーグ」は原作である『トップリーグ』と『トップリーグ2 アフターアワーズ』の2つの作品をベースにした、もう一つの「トップリーグ」だ。原作にはない登場人物やエピソードを加え、さらに深みと奥行きを増したストーリーを味わって欲しい。

大和新聞の政治部記者で、トップリーグへと上り詰めていく主人公・松岡直樹を演じるのは玉山鉄二。また松岡と同期で、現在は週刊新時代の記者として活躍する酒井祐治を池内博之が演じる。他にも小林薫、陣内孝則、小雪、佐久間由衣、光石研、佐野史郎、津嘉山正種など豪華出演陣が集まった。

ストーリー

大手在京新聞・大和新聞の経済部記者だった松岡直樹は、突然政治部への異動を命じられる。兜町とは勝手の違う霞が関の作法に戸惑いつつも、代理で官房長官の記者会見に出席する松岡。その席で投げかけたルール破りの質問から近藤官房長官に目を掛けられ、松岡は“トップリーグ”への道を駆け上がってゆく。そして松岡の同期だった酒井祐治は、週刊新時代の記者として旧紙幣で1億5千万円の入った金庫が投棄された事件を追っていた。松岡と酒井、同じ報道の世界に居ながら違う道を選んだ二人は、戦後史の黒い闇と向き合うことになる。

『トップリーグ』
突然政治部への異動を命じられた大和新聞の記者、松岡直樹は官房長官の記者会見で発言したことから政界の中枢へと食い込む“トップリーグ”への仲間入りを果たす。
一方、松岡の同期だった酒井祐治は週刊誌記者として、旧紙幣1億5千万円が投棄されていた事件を追っていた。しかし重要な情報源が次々と殺され、酒井は闇の深さに慄く。事件の名は“クラスター事件”。かつてこの国を震撼させた、一大航空疑獄事件であった……。
本体760円+税
『トップリーグ2 アフターアワーズ』
あれから5年。トップリーグとなった松岡は特別編集委員となり、講演会で各地を飛び回る毎日を送っていた。そんな中、政治部に異動してきた女性記者、灰原美樹は松岡にトップリーグを目指すと言い放ち、官房長官の引き立てもあって松岡と同じ道を歩み始める。一方、死の淵から還った酒井は週刊誌記者を辞め、京都で小さな学習塾を開いていた。だが、酒井の部下だった大畑康恵が突然現れ、「5年前の仇を討つ」と宣言した!
本体760円+税
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