魂の一行詩
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NEW ! 2009年8月号「ランティエ」掲載分
今月のアドバイス

「俗語とは現代性」

ブルースやロックンロールや草萌ゆる   石橋 翠

俳句と一行詩の違いをひと言で言えば、俗語を取り入れ、詩語に昇華させることだ。「そもそも元来、俳諧と連歌に本質的な差別はない。優美な言葉だけで読むのが連歌、俗語でも何でも取り込むのが俳諧とされるだけのことである」(小西甚一『俳句の世界』)。
子規の俳句から百年、まさに俳句は優美を求め、俗語を否定してきた。そのことによって、俳句は活力を失ってしまったのだ。俗語とは現代性である。現代を詠わない詩など、骨董品に過ぎない。

「ランティエ」メール一行詩
ランティエにはメールや葉書で一行詩が多数よせられています。それらすべてに角川春樹が目を通し、選び、批評した作品群をここに掲載します。
特 選 (※批評あり)
花嫁を抱きかかへたる立夏かな 曽根新五郎
ロックンロール流るる葬の青時雨 中村光正
菜の花の沖へ鯨は去りにけり 秦 孝浩
海鳴りは朱夏のノイズとなりにけり 大友盛男
蒼褪メタ骨ニ似タ花半夏生 久保響子
それぞれの春それぞれの修羅を抱き 村上 洋
薔薇の棘に惹かれて薔薇を見失ふ 大友麻楠
盲たる花守の眼に花の海 加藤完司
言霊が囀っている来来軒 丹羽康行
花嫁を抱きかかへたる立夏かな   曽根新五郎

同時作に、

雲に雲ひとつとなりし立夏かな
藤房のゆらがぬ影のなかりけり
夏蝶の空の青さとなりにけり
薔薇園の薔薇みるための白き椅子

がある。「雲に雲」の立夏の句と「花嫁」の立夏の句は同レヴェル。下五の「立夏かな」に対して、上五中七の「花嫁を抱きかかへたる」の措辞が良い。花嫁の眩いばかりの笑顔が「立夏」の季語に適確に響き合っている。

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ロックンロール流るる葬の青時雨   中村光正

同時作に、

戦争に吊るされてゐる聖五月

があり、句としては「聖五月」のほうが良い。しかし、俗語とは現代性という今月のアドバイスを生かした「青時雨」を鑑賞することにする。上五中七の「ロックンロール流るる葬の」は、五月二日に亡くなった忌野清志郎のこと。五月九日の葬儀には、四万三〇〇〇人のファンが集った。上五中七の「暗」に対して、下五の「青時雨」は「明」である。「暗」を「明」に転換させた現代の一行詩。

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菜の花の沖へ鯨は去りにけり   秦 孝浩

同時作に、

サーファーの心を波に描きをり
まほろばの天に傷なし桐の花
羅のひとが羽化するしぐれ

があるが、「桐の花」の一句が良い。しかし、「菜の花」の句が断然に良い。中七下五の「沖へ鯨は去りにけり」の措辞が抜群に面白い。勿論、「実」ではなく「虚」。詩的イメージの鮮やかな作品。

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海鳴りは朱夏のノイズとなりにけり   大友盛男

同時作に、

春月や猫科の少女発情す

があり、この句も面白い。一方、「海鳴り」の句は、中七下五の「朱夏のノイズとなりにけり」の措辞が良い。勿論、海鳴りは冬でも、春でもあるが、何といっても夏だ。しかも、中七の「朱夏のノイズ」は言い得て妙。

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蒼褪メタ骨ニ似タ花半夏生   久保響子

「半夏生草」は、半夏生のころ、白色の小花を多数つける。また「半夏生」は七月二日ごろで、半夏という毒草が生ずるところからこの名があるといわれ、この日はさまざまな禁忌があり、物忌みの風習があった。上五中七の「蒼褪メタ骨ニ似タ花」の措辞は、下五の「半夏生」に対して、季語の本意本情を言い止めたインパクトのある秀吟。

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それぞれの春それぞれの修羅を抱き   村上 洋

同時作に、

花時雨この世に生きて影を置く
千年の春千年の風の中

があるが、平凡な「いのち」を詠った「それぞれの春」の一句が良い。ひとりひとりに春はやって来るが、そのひとりひとりに一つずつの修羅が宿っている。中七下五の「それぞれの修羅を抱き」の措辞が適確である。

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薔薇の棘に惹かれて薔薇を見失ふ   大友麻楠

同時作に、

脱皮するごとくにサーファースーツ脱ぐ

がある。「薔薇」の一句は、人間の象徴である。美しいものには棘があるとは、昔からの格言。人間の棘に惹かれた作者は、自分自身を含めて人間を見失うという句意。象徴詩の作品。

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盲たる花守の眼に花の海   加藤完司

句意は文字通りで、盲目となっても花守の眼には満開の桜が見える、ということ。下五の「花の海」の措辞が新鮮。

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言霊が囀っている来来軒   丹羽康行

「囀る」は鳥が囀るという春の季語。しかし、この句は鳥ではなく上五中七の「言霊が囀っている」と意表をつく表現の上に、下五の「来来軒」というどこの町でもある中華店を持ってきて更に面白くなった。ある種の機知俳句であり、ユーモア句として成功した。

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秀 逸
ヒコーキ雲ふいに現れ夏と書く 古賀由美子
止まり木に一人静が佇みぬ 田中雅博
缶ビールをとこの指がジャズを弾く 佐久間京子
鴫鳴くや生きるも死ぬも同じこと 窪田富子
昭和のスコール裸で飯を食つてゐた 立木 司
夕立の静寂にふたり去った夏 小川 悟
惜春のA7出口神保町 松原恵美子
逝く春をスローバラードで送りけり 永島 証
シュモクザメ泳ぐマダムの広き部屋 山崎寿也
爆心地拾いたくても屍無し 赤澤雄一
悪党に帰る家あり白薔薇 中原直太
その人の留守録三つ明易し 多田孝枝
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